龍(竜)とは?

龍は中国などの東アジア地域の古代神話で登場する神の化身であり瑞祥の象徴です。その歴史は紀元前5千年の中国仰韶文化まで遡り、1987年に河南省で数千年前の龍の像が発見されています。

中国の封建時代、龍は権力を表し皇帝の服飾品や器物にしばしば用いられました。龍の体は9つの動物からできており、角は鹿(しか)、耳は牛(うし)、頭は駱駝(らくだ)、目は兎(うさぎ)、鱗は鯉(こい)、爪は鷹(たか)、掌(たなごころ)は虎(とら)、腹は蜃(蛟:みずち)、項(うなじ)は蛇(へび)と言われています。

日本人は「りゅう」をorと書きますが、中国語では(発音:lóng)です。龙は龍を簡略化した文字(簡体字)であり、たいていの中国人は龍と書いても理解してくれます。一方、竜という字は、古代中国語であり現代の中国人は使いません。

繁体字が使われている台湾、香港、マカオや東南アジア諸国の華僑地域では、龙ではなく龍の字を使います。

龍と竜に違いはあるの?

日本語には「龍」「竜」の二つの漢字がありますが、意味において違いはあるのでしょうか?

ネットで検索すると中国のりゅうがであり、西洋のりゅう(ドラゴン)はと書くという説明がありますが、根拠となる文献は見つかりませんでした。

広辞苑では「龍」は頭にかざりがあり、大きな口をあけ、からだをくねらせているへびの形を描いた象形文字。「竜」は、その省略形と解説されています。よって「龍」と「竜」は同じ生き物であると言う説が有力です。

ちなみに古代中国では雄のりゅうを「龍」、雌のりゅうを「竜」として分けていたとの話もあります。

龍とドラゴンの違いは?

中国の龍と似た生き物として、西洋にはドラゴンがいます。どちらも外見は似ていますが、ドラゴンと龍はまったく異なります。

西洋のドラゴンは、翼を持ち火を吐く悪魔の化身(モンスター)でありキリスト教では悪と罪の象徴It is.

一方、中国の龍は、邪気を追い払い災害を避け、縁起の良い力をもった幸運をよぶ生き物であり、中国皇帝にとっては権威の象徴It is.

ちなみに英語では、西洋のドラゴンと区別するため、中国の龍をチャイニーズドラゴン(Chinese dragon)と呼びます。

龍の爪(指)は何本あるの?

皆さんは龍の爪(指)は何本あるかご存知ですか?

龍の爪なんてどうでも良いと思うかもしれませんが、昔の中国人にとって爪の本数はとても重要な意味を持っていました。

実は古代の中国では龍の爪数について明確に定まってなく唐・宋の時代までは三本爪が基本でした。※前足が三本爪、後足が四本爪の場合もあります。

元代に入ると五本の爪をもち、頭に二本の角をはやした「五爪二角」だけが本当の龍であると定義されます。延祐(えんゆう)元年(1314年)には五爪二角の龍文が皇帝専用の文様となり、以降中国では皇帝以外の者が五本爪の龍を使用することが禁止されます。

明・清の時代になると爪の本数が所有者の地位を意味するようになり、階級によって三本爪、四本爪、五本爪を明確に分けるようになりました。

爪の本数と階級

前述のとおり明・清の時代になると爪の本数が所有者の地位を意味するようになり、三本爪、四本爪、五本爪が使われます。爪の本数が多いほど地位が高いとされます。

五本爪の龍

最高位の王を表していました。五本爪が使えるのは皇帝だけであり、もし他の人が間違えて使うと政治犯として罰せらました。

四本爪の龍

皇族を表しており、親王や地方の王だけが使うことが出来ました。ちなみに四本爪の龍を刺繍した礼服は蟒袍 mǎnɡ páo(大蛇の長衣)といい、皇帝が着る龍袍 lóng páo(龍の長衣)とは区別して呼んでいました。もし親王や地方の王が五本爪の龍袍を着ると、それは皇帝に反旗を翻したと解釈されました。

三本爪の龍

役人の礼服などで使われていました。

龍の爪数の決まりは、服飾以外の芸術品にも適用されています。現存する明・清時代の芸術作品はほとんどが四本爪の龍です。皇帝に捧げた五本爪の龍は非常に希少であり博物館などでしか見れません。

ちなみに皇帝の住居であった北京の紫禁城(故宮)の九龍壁の龍は五本爪です。しかし山西省大同市の皇族屋敷(大同大王府)の九龍壁の龍は四本爪であり階級をわきまえています。

北京紫禁城 は5本爪だが大同市の皇族屋敷は4本爪
北京の紫禁城(故宮)の九龍壁は、清王朝、乾隆帝の時代に作られました。山西省大同市の皇族屋敷(大同大王府)の九龍壁は、明王朝に、太祖朱元璋の13番目の子が作りました。

また一般庶民の暮らしで出てくる龍は四本爪までであり、芝居の中で皇帝役を演じるときも四本爪の龍の衣装を使いました。現在でも暦の十二支の龍の絵柄の多くは四本爪です。

龍の爪数にまつわる小話

中国はかつて東アジアの宗主国であり、周辺諸国に大きな影響を与えていました。

五本爪の龍が皇帝専用となった元・明・清の時代において朝鮮(韓国)や琉球(沖縄)など周辺諸国の王は中国への配慮から四本爪の龍しか使いませんでした。

ごく少数の韓国人は「韓国は四本爪の龍だが、日本のは三本爪なので格下である。」と言って優越感を抱いているとの話があります。

確かに日本には三本爪と四本爪の龍が混在しています。

しかし中国で五本爪の龍が確立された元・明・清の時代において、日本は元に攻められたり(元寇)、日本が朝鮮半島を侵略したり(文禄・慶長の役)して日本と中国は微妙な関係でした。民間の貿易交流はあっても政治や文化交流に関しては朝鮮半島の国のように属国化してなかったのです。

日本が中国から最も影響を受けたのは、王朝と緊密な交流をしていた隋や唐の時代であり、その当時の中国では三本爪の龍が基本でした。よって日本には遣隋使や遣唐使らによって伝わった昔の三本爪の龍が今でも残っていると考えた方が現実的です。

最後に

仕事で旅行で中国や台湾に行ったとき、もし龍の絵柄を見たら是非、爪の数を見て下さい。五本爪の龍を見つけたら、そこには意外な物語があるかもしれません。

龍に関する話は諸説あります。