最近、ニュースで全人代(ぜんじんだい)という言葉がよく出てきます。全人代とは何をするところでしょうか?あらためて知識を整理してみました。

全人代って何?

はじめに全人代(※注1)は略語です。正しくは、全国人民代表大会(ぜんこく じんみん だいひょう たいかい)と言います。

大会という名前を聞くと、日本人はついつい競技会をイメージしてしまいますが、中国で行われる国会のことです。

全人代の期間中、中国全土から代表者(約3000人)が首都北京市の人民大会堂にあつまり、国のルール(法律)やお金の使い道(予算)などを決定します。

国会と同じと言っても、日本のように野党と与党が激しく意見を交わすことはありません。

政策や法案の中身は会議開催前に決まっており出来レースです。ただし、形式上、全人代にて電子投票を行い採択します。

※注1:全国人民代表大会を「全人代」と略すのは日本人だけです。本場の中国では全国人大(Quánguó Réndà)または人大(Réndà)と呼ばれています。

全人代と日本の国会の違い

国の代表者による会議という点では、日本の国会も中国の全人代も同じです。

しかし、議会システム・開催期間・権限の大きさ・代表者の選び方や任期など個別にみると違いがあります。

1.議会システム

日本の国会は、「衆議院」と「参議院」という独立した2つの議院があります。

議案に対して各議院がそれぞれ独立して意思決定を行い、原則(※注2)両議院の意思が一致しないと国会の意思が成立しません。

これを2院制と呼びます。

いっぽう全人代は、一つの議院しかないため1院制です。

1院制は、「民意は一つである。」という考えに基づき1789年のフランス革命議会で初めて採用されました。

1院制の良い点は、スピードです。1つの議院で決議するので審議が早くなります。また、2院制より議員数が少なくできるので低コストです。ただし、1院制は強い勢力をもった党や組織の意見が通りやすく、与党による独裁を防ぐのが難しいのが欠点です。

世界全体をみると1院制の国家が多く、スウェーデン・デンマーク・アイスランド・ニュージーランド・トルコ・バチカン帝国・韓国・台湾・北朝鮮などが採用しています。※2019年12月時点で192カ国中113カ国が1院制

一方、2院制の良い点は、議案に対して慎重に審議できることです。

ただし、ねじれ国会と呼ばれる2つの議院で意見が分かれると審議が行き詰まります。また議員数が増えるため1院制よりは経費が膨らみやすいという欠点もあります。

因みにサミット(先進国首脳会議/G7)のメンバーであるフランス・アメリカ・イギリス・ドイツ・イタリア・カナダ・日本は、2院制を採用しています。

1院制国家と2院制国家の割合

参照元:列国議会同盟(IPU)の2019年12月時点のデーターより

※注2:日本は2院制といっても予算・条約・内閣総理大臣の指名・法律案の議決に際しては、衆議院が強い権限が与持ちます。また、内閣不信任決議は衆議院だけが行えます。

2.開催期間

日本の国会(通常国会)は、毎年1月に開催され期間は150日間(約5カ月)です。

一方、中国の全人代は、毎年3月に開催され期間はたったの10日間です。

2020年は、コロナの影響により異例の5月末開催となり7日間で閉会となりました。

全人代の開催期間は、日本の国会に比べて非常に短いです。

しかし、全人代には全国人民代表大会常務委員会(※注3)という常設機関があり、全人代閉会中に代わりに法案や政策を決定しています。

※注3:全国人民代表大会常務委員会のメンバーは、全人代の中から選出された200名ほどで構成されています。任期は5年で委員長は日本でいう国会議長に相当します。

3.権限の強さ

日本は、憲法で三権分立(さんけんぶんりつ)を定めており、国のルールを決める立法権を国会、政策を実行する行政権を内閣、法律を違反した者を罰する司法権を裁判所に分けており、一つの機関に権力が集中しない仕組みがあります。

一方、中国は、全人代が国家の最高権力機関であり、立法権だけでなく、行政権・司法権・検察権に対しても優越しています。

また、中国の主席(国家元首)・国務院(最高行政機関)・国家中央軍事委員会(最高軍事指導機関)・最高人民法院(最高司法機関)・最高人民検察院(最高検察機関)の構成員も全人代から選出されます。

4.代表者の選び方

日本では、国会の代表者(議員)を国民による直接選挙で選出しますが、中国では、全人代の代表者は、省・自治区・直轄市・軍隊の各組織が選出する仕組みとなっており、国民が直接選ぶのではありません。※注4

全人代の代表選び方
※注4:中国には、国民による選挙がないと思っている人も多いと思いますが、县・区・乡・镇と呼ばれる日本の市区町村に該当する小単位の代表者は、選挙で選ばれます。ただし立候補者は、共産党または党関連組織の後ろ盾がないと当選するのが難しく日本のように人気があれば当選するということではありません。

5.代表者の任期

中国全人代の代表者任期は、5年です。

なお、現在の代表者(第13期)の任期は、2018年3月-2023年3月です。

日本の国会代表者(議員)任期は、衆議院が4年、参議院が6年(※3年ごとに半数改選)です。

6.代表者数の違い

全人代の代表人数は、2020年5月時点で2980名です。※注5

一方、日本の国会代表者(議員)は、710名(衆議院465名、参議院245名)です。

全人代の3,000名は多すぎるように思えますが、中国は日本の11倍にあたる14億の人口を有しており決して多い数字ではありません。

※注5:北京市42名,天津市33名,河北省116名,山西省61名,内蒙古自治区53名,遼寧省94名,吉林省58名,黒竜江省84名,上海市50名,江蘇省138名,浙江省84名,安徽省104名,福建省62名,江西省76名,山东省162名,河南省159名,湖北省108名,湖南省110名,広東省151名,广西壮族自治区85名,海南省21名,重慶市55名,四川省137名,貴州省66名,雲南省87名,西藏自治区17名,陝西省65名,甘粛省49名,青海省18名,宁夏回族自治区18名,新疆维吾尔自治区56名,香港特別行政区36名,澳门特別行政区12名,台湾省暫時選挙13名,中国人民解放軍265名,その他255名

政党の違い

中国には共産党しかないと思っている人がいますが、実は違います。

共産党以外に8政党あります。構成比率としては約70%が共産党、残り約30%が他政党です。※注6

一方、日本は、現在12政党です。与党である自民党の比率は、2020年4月27日時点で、衆議院で約61%もあり、公明党を含めると67%にもなります。

構成比率だけを見ると日本もある意味で自民党独裁国家であると言えるかもしれません。

※注6:全人代政党内訳
中国共産党 (2100名)
九三学社(63名)
中国民主同盟(57名)
中国民主建国会(57名)
中国民主促進会(55名)
中国農工民主党(54名)
中国国民党革命委員会(43名)
中国致公党(38名)
台湾民主自治同盟(13名)
無所属(476名)