東坡肉(トンポーロウ)の由来
東坡肉(トンポーロウ)は、日本人にも大人気の豚肉料理です。醤油ベースで時間をかけて、とろとろになるまで煮込まれた豚肉は、とても柔らかくご飯のおかずとしてお年寄りから子供まで大人気です。
いまでこそ豚肉は、中華料理の代名詞といえるほど必要不可欠な食材ですが、昔からそうだったわけではありません。中国の歴史では、正当な肉と言えば羊肉であり、豚肉は貧しい人たちが食べるものでした。東坡肉(トンポーロウ)という料理名は、豚肉があまり食べられてなかった今から千年前の宋の時代(960年 – 1279年)に、その美味しさを広めた、蘇東坡(ソ・トンボー)という人の名前から来ています。
蘇東坡(ソ・トンボー)とはどういう人か
蘇東坡は、正式名を蘇軾(そしょく、Sū Shì)といい、進士と呼ばれるとても難しい官僚登用試験に合格した頭脳明晰な役人でした。彼は、詩文や書道に造詣が深いだけでなく、食通でもあり現代でいう料理研究家でした。特に、煮込み料理が得意であり、自分の趣味にとどまらず、人々に調理法を教えたり料理を振舞っていたようです。
逸話の一つとして、蘇東坡が、江蘇省の徐州市(じょしゅうし)に地方官として赴任し、洪水対策などの公共工事の指導を行った時、貧しい百姓達が感謝のしるしに自分たちの豚を殺して肉を献上しに来ました。蘇東坡は、最初受け取りを断わりましたが、百姓たちがどうしても受け取って欲しいというので、その豚肉を醤油で煮込み百姓達にふるまいました。それを食べた百姓たちは、脂っこくなくて美味しいこの豚の醤油煮(紅焼肉)をとても気に入り、以来この豚肉料理を【回赠肉(返贈肉)】と呼んだそうです。※ちなみに、現代の回鍋肉(ホイコーロー)とは異なる料理です。
このように深い人間愛をもった蘇東坡でしたが、役人としては恵まれず、国政誹謗の罪を着せられて湖北省の黄州に左遷されてしまいます。失意のなかで移り住んだ黄州は、豚肉の価格が安いにもかかわらず、人々はあまり食べてませんでした。蘇東坡は、市場で豚肉を買い、自分で調理して食べたところ、ことのほか美味しいことに驚き、即興で《食猪肉詩》という詩を読みました。
豚肉を食す詩
黄州好猪肉, 价贱如粪土。
富者不肯吃, 贫者不解煮。
慢着火, 少着水, 火候足时它自美。
每日早来打一碗, 饱得自家君莫管。
意味:黄州の豚肉はうまく、値段は糞(くそ)のように安い。富める者は見向きもせず、貧しき者は調理法を知らない。弱火で、少量の水を加えながら、トロトロ煮込めば、とても美味しくなる。毎朝起きて一人分料理し、誰にも気兼ねせず、ただ満足して食べる。
この歌が、1人から10人、10から100人とどんどん広まっていき、やがて、この豚肉を弱火でとろとろ煮た料理の事を、蘇東坡の豚肉料理という意味で、東坡肉と呼ぶようになりました。
これが、日本でも大人気の中華料理の定番料理、東坡肉(トンポーロウ)の由来です。
参照資料:古诗文网 苏轼より