今回は外航貨物海上保険の代位求償及び求償権放棄についてご説明します。

1.代位求償について

貨物に損害が発生し、その原因が運送人(船会社/陸送業者/倉庫業者など貨物受託者)の責任に帰する場合には、荷主は運送契約に基づき運送人に損害賠償を請求することができます。

荷主が保険会社との保険契約によって当該貨物の損害について保険金を受け取った場合、荷主が有する運送人に対する損害賠償請求権(求償権)は、保険会社が承継(代位取得)することになります。

※貨物の所有権が移転するものではありません。

※英文保険証券の準拠法である1906年英国海上保険法(Marine Insurance Act 1906)第79条に定められています。

保険会社が保険金支払いをもって荷主である被保険者から求償権を承継(代位取得)すると、保険会社はこれを行使して運送人に賠償請求を行います。これを代位求償といいます。

通常、保険会社が保険金支払いにより求償権を代位取得したことを証明します、権利移転証(Subrogation Receipt)に荷主である被保険者が署名して、保険会社へ提出します。

保険会社は海事弁護士等を起用して代位求償を行いますが、求償には時間がかかり、また支払った保険金に対して受け取れる求償額はあまり多くないのが通例です。

【ご参考:1906年英国海上保険法】

第79条 代位権
(1)保険者が、保険の目的物の全部または貨物の場合には保険の目的物の可分な部分の全損に対して保険金を支払ったときは、保険者は、これによって、保険金が支払われた保険の目的物の残存する部分について被保険者が有する利益を承継する権利を有し、かつ、これによって、損害を引き起こした災害の時から、保険の目的物自体についておよび保険の目的物に関して被保険者の有する一切の権利および救済手段に代位する。

保険会社が代位求償を行うことには大きく2つの意味があります。

・代位求償で回収した金額をお支払保険金から控除した形で、保険成績を計算します。したがって、代位求償を行う事で荷主の保険成績は改善します。

・事故を起こした運送人に対しての注意喚起となり、荷扱い事故の抑制が見込まれます。

2.求償権放棄について

上記の通り、保険会社は保険金支払いにより求償権を代位取得しますが、この代位求償権を行使すると、荷主である被保険者に一定の問題が発生する場合(例えば求償対象の第三者が被保険者の子会社の場合など)が考えられます。

そうした場合に代位求償権を放棄すること(求償権放棄)をあらかじめ約して保険契約をすることができます。具体的には、海上保険の保険条件に「損害賠償請求権放棄特約(Waiver of Subrogation Clause)」を付帯します。ただし、求償権を放棄する対象に外航本船の船会社は含まれません。