中国で急拡大している市場といえば、電気自動車(EV)であり、2017年の業界売上成長率は、前年度比51.1 %増でした。

エンジン開発に莫大な時間とコストがかかるガソリン自動車と異なり、電気自動車(EV)は、高効率のモーターと高性能のバッテリーが手に入れば、それなりの車が作れてしまうため、参入障壁は、低いと言われています。

EVの本格的な普及が始まった中国では、これからEVメーカー同士の激しい戦いが待ち受けています。

中国EVメーカー各社の動向

低迷するトップ比亜迪(BYD)社

中国のEVメーカーといえば、比亜迪股份有限公司(BYD、ビーワイディー)です。

同社は、これまで中国EV市場のトップを独走してきました。しかし、ここにきて成長スピードが鈍ってます。

BYDの2017年におけるEV売上台数は、113,669台であり、売上成長率は、前年度比約11 %増でした。

これは、EV業界全体の成長率51.1%に比べてかなり低い数字です。

BYDを追いかける競合メーカー

EV業界2位の北京汽車集団有限公司(BAIC)の2017年売上は、前年度比125%という驚異的な成長率を達成し、売上台数は、10万の大台を越え104,520台になりました。

これは、BYDの売上台数の約92%に相当する台数であり、北京汽車は、2018年にEV販売台数でBYDを追い越す可能性が出てきました。

ただし、北京汽車のEVは、低価格帯が中心であり、中国EVのメイン市場である中価格帯と高級価格帯では、いまだにBYDが市場を占有しています。

EV業界3位の上海汽車工業総公司(SAIC)も、売上を急速に伸ばしており、2017年は前年度比121%増でした。

ただし、販売台数でみると44,200台しかなく、10万台を超えるBYDや北京汽車に比べると半分以下です。

上海汽車は、第一汽車・東風汽車と並ぶ中国の三大自動車メーカーの一つです。独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)との合弁会社を含めた上海汽車グループのガソリン自動車販売台数は、2016年度で647万台もあります。

もし、巨人である上海汽車が本気でEV事業に参入すれば、BYDにとって最も手ごわい相手になります。

その他の注目すべきEVメーカーとして、重慶長安汽車股份有限公司(CHANGAN AUTOMOBILE)があります。

同社は、自社ブランドの自動車メーカーで有名であり、2017年のEV売上台数は、2.9万台に達し、売上は、前年度比で487%、つまり約5倍の伸びとなりました。

また、ガソリン車で有名な、吉利汽車(GEELY AUTOMOBILE)も、2017年の売上は、前年度比45%増となり、2.4万台のEVを販売しました。

リーダー不在の中国EV産業

中国EVメーカーは、比亜迪(BYD)、北京汽車、上海汽車、長安汽車、吉利汽車のトップ5以外に、江淮汽車(JAC)、奇瑞汽車(CHERY)、衆泰汽車(ZOTYE)、知豆電動汽車(ZD)、江鈴汽車(JMC)などがいます。

環境問題に本気で取り組んでいる中国政府の後押しもあり、EV市場は、急拡大していますが、最大の問題は、業界を引っ張っていくリーダー企業がいないことです。

確かに、比亜迪(BYD)は、EV売上台数トップであり、長年、先行技術の開発に注力してきた企業です。

しかし、優位な技術力を蓄積しているにもかかわらず、業界リーダーとしての絶対的な地位を獲得するには至っておらず、反対に少しずつ初期の市場優位性を奪われている状態です。

2017年のBYD成長率が、業界平均より大幅に下回ったことが、BYDの低迷を裏付けています。

他業界のリーダー企業とBYDの比較

業界のリーダー企業は、しっかりした技術と基礎能力を持ち、市場が順風でも逆風でも業界の先頭を走らなればなりません。

中国には、それぞれの業界にリーダー企業が存在しており、他社が容易に追いつけない技術力と組織力で業界全体を牽引しております。

他業界のリーダー企業

・通信業界:華為技術有限公司(HUAWEI)
・スマートフォン:華為技術有限公司(HUAWEI)、小米科技(XIAOMI)、オッポ(OPPO)、ビボ(VIVO)の4強
・国産半導体チップ:海思半導体有限公司(HISILICON)
・監視カメラ:杭州海康威視数字技術股份有限公司(HIKVISION)
・クラウド計算産業:阿里雲(ALIYUN)
・ドローン:大疆創新科技有限公司(DJI)
・鉄道交通:中国中車股份有限公司(中車 or CRRC)
・音響部品:瑞声科技控股(AAC TECHNOLOGIES)
・表示パネル:京東方科技集団股份有限公司(BOE)
・リチウム電池:宁德時代新能源科技有限公司(CATL)
など

他業界のリーダー企業成長率

2010年
営業売上
2017年
営業売上※見込
2010-2017年
売上成長
EV
比亜迪
(BYD)
486.85億元
(約8,377億円)
約1,000億元
(約1兆7,200億円)
2.1倍
通信
華為
(HUAWEI)
1,852億元
(3兆1,900億円)
約6000億元
(約10兆3,200億円)
3.2倍
表示パネル
京東方
(BOE)
80億元
(約1,400億円)
約900億元
(約1兆5,500億円)
11.3倍
監視カメラ
海康威視
(HIKVISION)
36.05億元
(約620億円)
350億元
(約6,000億円)
9.7倍
リチウム電池
宁德時代
(CATL)
創立前
※2011年創立
約120億元
(約2,000億円)
∞倍
音響部品
瑞声科技
(AAC)
34億元
(約585億円)
約180億元
(約3,100億円)
5.3倍
ドローン
大疆
(DJI)
300多万元
(5,161万円)
約180億元
(約3,100億円)
600倍
ガソリン車
上海汽車
(SAIC)
3,773億元
(約6兆4,900億円)
8,706億元
(約14兆9,800億円)
2.3倍
IT
阿里巴巴
(ALIBABA)
55.57億元
(約960億円)
1,583億元
(約2兆7,200億円)
28.5倍
鉄道交通
中国中車
(CRRC)
1,271億元
(約2兆1,900億円)
2,297億元
(約3兆1,000億円)
※2016年数字
1.8倍
※補足説明:
中国中車の2010年売上は、合併前の中国南車と中国北車の売上合計です。

他業界のリーダー企業とBYDの違い

BYDグループは、2010年の営業売上が、486.85億元(約8,377億円)でした。同社の2017年の営業売上は、第3四半期時点で739億元(約1兆2,700億円)であり、通年では、1,000億元(1兆7,200億円)程度と予想されています。

つまり、7年間で売上が倍増し、年平均の売上成長率約11 %です。

同じ自動車業界で、2016年度で647万台もガソリン自動車を販売した上海汽車でさえ、2010年から2.3倍も成長していることを考えると、BYDの成長率は、どうしても低いと言わざるを得ません。

現在、BYDは、アウディのデザイナーを引き入れ、車の外観デザイン変更を行っていますが、研究開発、営業、人材確保、管理方法などあらゆる面で徹底的な事業改革しなければ、一流企業になれず、中国EV市場の拡大にしたがい、人々に失望を与えることが増えることになります。

変化の激しいEV産業で、BYDが本当のリーダーになれるのか?それとも、このまま沈んでいくのか、当面目が離せません。

情報参照元:宁南山『2017年中国制造业发展简析』より