スエズ運河座礁事故
2021年3月23日、エジプト・スエズ運河を北上中の大型コンテナ船(EVER GIVEN)が座礁して航路をふさぎ、船舶が通航できないという事態が発生しました。タグボートによる離礁が成功し、通航再開となったのは同月29日であり、結果として約7日間もの間、スエズ運河の通航が遮断されることとなりました。
スエズ運河とは
アフリカとアジアの境界であるエジプト・スエズ地峡に整備された全長193.3kmの人工運河であり、年間約1万8,000隻超の船舶が運航する世界的な交通の要衝です。
インド洋北西部のアラビア海からイギリス・ロンドンの航行距離は、スエズ運河を通るルートなら、アフリカの喜望峰回りに比べ約8900kmを短縮でき、約半分になります。
これによって航行日数を約1週間短くし、燃料コストも約半分に抑えることができると言われています。
なぜ座礁事故が発生したのか?
原因は人為的なものではなく、強風と砂嵐による視界不良との見方が濃厚です。
座礁による影響
アジア・欧州間の海上輸送は利便性の点からスエズ運河に依存しており、座礁した船舶以外の、通航予定であった多くの船舶の輸送スケジュールに影響を及ぼしました。これらの船舶は通航再開まで地中海や紅海で待機するか、アフリカ大陸の南端、喜望峰を経由して運航を継続することとなりました。
海上保険の補償内容
船舶の滞船および輸送の長期化に関する海上保険の補償内容は以下の通りです。
なお、個別に発生した事象が支払対象かどうかは、実際の引受内容をもとに判断することとなりますのでご留意ください。
被保険者の支配し得ない遅延、離路について
外航貨物海上保険は被保険者の支配し得ない遅延、一切の離路(例:スエズ運河経由から喜望峰経由への変更)、やむを得ない荷卸し、再積込または積み替えの期間中および運送契約によって運送人に与えられた自由裁量権の行使から生じる一切の危険の変更の期間中有効に存続します。
仕向地の変更について
外航貨物海上保険(協会貨物約款)では、保険期間開始後に被保険者が仕向地を変更する場合には、遅滞なくその旨を保険会社へ通知し、改めて保険料率および保険条件の協定を行う必要があります。
遅延損害について
外航貨物海上保険(協会貨物約款)では遅延によって生じる滅失、損傷または費用(共同海損によって支払われる費用を除く)は保険の対象とはなりません。
注)保険の期間は上述「被保険者の支配し得ない遅延、離路について」の通り有効に存続しますが、例えば遅延を原因とした青果物等の品質劣化、販売価格の値下がり、遅延賠償金等は対象外です。
企業のリスク対策について
スエズ運河以外にもマラッカ海峡、ホルムズ海峡、パナマ運河のような交通の要衝では、運航が遮断した場合、世界の物流に大きな打撃を及ぼします。近年、船舶の大型化や自然災害の激甚化を背景に、港湾や海峡・運河での物流途絶・遅延リスクは今後ますます高まっていくと予想されます。
リスクが顕在化した場合の事業への影響や財務的影響をしっかりと評価し、代替手段や計画を再確認のうえ訓練や演習を通じて実効性を高めるすることが大切です。