モノづくりに関わる仕事をしていると「3σ±50umで精度をコントロールして欲しい。」とか「Cpk1.33で工程管理して欲しい。」などの難しい言葉を耳にすることがあります。

「σ」「Cp」「Cpk」を理解するには、正規分布・標準偏差・工程管理能力指数を学ぶ必要があります。

ちなみに前述の「3σ±50um」は、製品の約99.73%が±50umの範囲に入ることを表し、「Cpk1.33」は、製品の99.9937%が規格上限値と下限値の範囲に入ることを意味します。

本ブログでは、数学が苦手な人でも分かるように数式を使わずに言葉だけで正規分布・標準偏差・工程管理能力指数(Cp、Cpk)を説明しました。

知識が増えると仕事の幅が広がります。是非ご活用ください。

正規分布とは?

正規分布(せいきぶんぷ)とは、製品を測定した時の標準的なデーター分布のことです。

英語では “Normal Distribution(正常な分散)”といいます。中国語では”正态分布(zhèng tài fēn bù)”または”常態分布(cháng tài fēn bù)”と書きます。

正規分布の説明例として、あなたが手作りのパンを100個焼いて全てのパンの重さを量ったとします。

それぞれのパンの重さが平均値からどれくらい離れているか計算し縦軸を個数、横軸を重さとしてグラフで表示すると必ず下図のように平均値を中心としてベルを逆さまに吊るしたような左右対称の山型の形になります。

この図の形のことを「正規分布(正規分布)」といいます。

正規分布の図:平均値を中心左右対称の山型になっている。
正規分布の図:平均値を中心左右対称の山型

世の中は正規分布にあふれています。製造した製品の寸法・人の身長・学校の成績・雨の大きさなど測定できるものはほとんど全てが、平均値からのバラつきをグラフにすると正規分布の形になります。

逆にいうと、データーが正規分布の形にならない場合は、データーに手が加えられているか、何か異常が発生していると考えることができます。

標準偏差とは?

標準偏差(ひょうじゅんへんさ)は、測定したデーターが平均値からどれくらいバラついているかを表す指標のことで、英語で”Standard Deviation(SD)”、中国語で”标准差(biāo zhǔn chā)”といいます。

実務において標準偏差は「σ(シグマ)」という記号で表記します。

標準偏差(σ)の計算方法

標準偏差の計算式は、数学が苦手な人には理解が難しいですが、どのように計算するか言葉で表すと以下のようになります。

  1. 測定データーの平均値[ave-1]を求める。
  2. 各測定データーと上記1で計算した[ave-1] の差異[sai-1]を求める。
  3. 上記2で求めた差異[sai-1]をそれぞれ2乗[sai-2]する。
  4. 上記3で求めた2乗した値[sai-2]の平均値[ave-2]を求める。
  5. 上記4で計算した平均値[ave-2]の平方根の値が[標準偏差1σの値]になる。
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エクセルをつかって標準偏差1σを値を計算する場合は、セルの中に【=STDEV.P(値の範囲)】を記入すれば計算できます。

なお平均値から±1σ(-1σ~+1σ)の範囲に入る確率は決まっており全体の約68%(約2/3)になります。

たとえば平均100グラムのアンパンの標準偏差1σが10であった場合は、約2/3のアンパンが100±10gの範囲内に入ることを意味します。

尚、量ったアンパンが100グラムちょうどでバラつきが全くない場合、標準偏差1σは「0」になります。

■σの範囲と確率

±1σの範囲=全体の約68.27% (±1σから外れる確率:約1 / 3)
±2σの範囲=全体の約95.45% (±2σから外れる確率:約1 / 22)
±3σの範囲=全体の約99.73% (±3σから外れる確率:約1/370)
±4σの範囲=全体の約99.9937%(±4σから外れる確率:1/15,787)
±5σの範囲=全体の約99.999943%(±5σから外れる確率:1/1,744,278)
±6σの範囲=全体の約99.9999998027%(±6σから外れる確率:1/1,744,278)
±7σの範囲=全体の約99.9999998027% (±7σから外れる確率:1/390,682,215,445)

Standard Deviation
標準偏差σの範囲
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大学試験で使われる偏差値の場合は、「平均値を50、標準偏差1σを10」で表記しています。よって-3σ=偏差値20、-2σ=偏差値30、-1σ=偏差値40、0=偏差値50、1σ=偏差値60、2σ=偏差値70、3σ=偏差値80となります。

工程管理能力指数(Cp、Cpk)

CpとCpkは、規格の上限値と下限値の幅のなかに、±3σの範囲(正規分布の99.73%)がどのくらい収まっているかを数値化したもので、製造工程の品質バラツキ度合いをあらわす指標です。

「規格の上限値と下限値の幅」を「実際測定した正規分布±3σの幅」で割ることで計算することができます。どちらもまったく同じ幅であれば「1」となります。

生産現場においてCpやCpkは高ければ高いほど良く、生産プロセスが安定していることを表します。

もし、ある製品の生産工程のCpまたはCpkの値が1であれば、±3σの範囲つまり全体の約99.73%が規格値の範囲に入っていることを意味します。 これを言い換えると規格から外れる確率は370個中1個ということになります。

CpとCpkの違いについて

Cpは”Process Capability Index”の略称であり直訳すると「プロセス能力指標」になります。中国語で”过程能力(guò chéng néng lì)”といいます。

Cpkは日本で考案された指標のことで「偏り補正をしたCp」のことです。中国語で”工程管理能力指数(guò chéng néng lì zhǐ shù)”といいます。

尚、Cpkの「k」は日本語の「偏り/Katayori」の頭文字から来ています。

Cpの計算では、規格の上限と下限の中心値と実際の測定値の平均値(正規分布の中心値)が同じという前提で計算しますが、実際のものづくりでは規格の中心値と実測の平均値の間には若干のズレが生じるものです。

例として、ある製品の長さの規格値が100±5umであったとします。

製造現場は当然100umちょうどを狙って製造しますが、実製品の長さの平均値はかならずしも100umちょうどにはならず、少しずれた100.5umになったりします。

この差を補正したものをCpkと言います。Cpkの計算式はCpk=(1-k)×Cpです。

実務においてCpkのほうが実用性が高い指標であり、一般的にモノづくり工程においてCpkは1.33以上は必要と言われています。

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Cpの値に6σをかけると、どのくらいの管理能力が必要か簡単に計算できます。Cp=1.33を例にすると、1.33x 6σ=7.98σ(約8σ=±4σ)となります。この場合、生産工程は1万個に7個の不良が発生する能力であることを意味します。

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