意外と知らない人が多い手形や小切手取引の知識

商取引の代金回収に関して、買主によっては、現金の代わりに手形や小切手を使った支払いを望む場合があります。手形や小切手は有価証券(所持者の財産権を証明する証書)の一種で、所持者は裏書することによってその財産的権利を他の人に譲渡できます。
米国シリコンバレーなどでは、優れた技術を持った企業に投資家がその場で小切手を渡す場合がありますが、将来あなたも同じようなチャンスに遭遇するかもしれません。

そんな時に知っておくと良いのが手形法や小切手法の知識です。といっても、弁護士のような専門知識は必要ありません。せめて、日本や大陸系諸国はジュネーブ統一法を採用しているが、イギリスやアメリカでは、独自の法律(英米法)を採用しており、万が一、偽造や改ざんされた手形や小切手を受け取ってしまった場合に、英米法では現金化が困難になる可能性があることだけは、頭の片隅にいれておいた方が良いと思います。

具体的なケースにおける国内法と英米法の違いについて

被害ケース

ある業者A社が、B社から手形を盗み、裏書の指図人をA社に改ざんしました。何も知らずA社と取引をおこなったあなたは、A社からの依頼で手形引き受けに応じ、あなたの名前で裏書された手形を受け取り、製品をA社に納入しました。翌日、手形の本当の持ち主であるB社からあなたに連絡があり、その手形は盗まれたものだから返して欲しいと要求されました。既に商品を業者Aに渡してしまったあなたは、手形を返すと商品代金が回収できなくなります。

この場合、日本で採用されているジュネーブ統一法の解釈では、指図式の手形や小切手類に関して、偽造や改ざんがされていることを全く知らず、取引相手を信用するにあたって落ち度がなかったのあれば(法律用語で善意取得といいます)受け取った手形や小切手は有効であると見なされます。よって、銀行に持ち込んで現金化が可能です。

一方、アメリカやイギリスなどの英米法では、たとえ善意無過失でもらい受けていたとしても、偽造や改ざんがあった手形や小切手自体が無効と解釈されるため、場合によっては、銀行で現金化した後でも、偽造、改ざんを理由に返金を求められる可能性があります。

因みに、手形や小切手は行為地主義(こういちしゅぎ)が適用されるので、小切手や手形を取り扱う行為が行われた国の法律で採用されます。よって、日本で振り出され、ドイツで引き受けと裏書をされ、アメリカで支払われる手形は、振り出しが日本法、引き受けと裏書がドイツ法、支払が米国法に準拠する事になります。

法律の解釈はいろいろあるので、もし海外企業から手形や小切手を受け取る事があれば、自分で勝手に決めつけず国際弁護士にご相談することをお勧めします。

手形法
第八十九条 第1項
為替手形上及約束手形上の行為の方式は署名を為したる地の属する国の法に依り之を定む
第九十条 第1項
為替手形の引受人及約束手形の振出人の義務の効力は其の証券の支払地の属する国の法に依り之を定む
第九十条 第2項
前項に掲げる(原文は、掲グル)者を除き為替手形又は約束手形に依り債務を負う者の署名より生ずる効力は其の署名を為したる地の属する国の法に依り之を定む。但し遡求権を行使する期間は一切の署名者に付証券ノ振出地の属する国の法に依り之を定む

小切手法
第七十七条 第1項
小切手の支払人たることを得る者は支払地の属する国の法に依り之を定む
第七十八条 第1項
小切手上の行為の方式は署名を為したる地の属する国の法に依り之を定む。但し支払地の属する国の法の規定する方式に依るを以て足る
第七十八条 第2項
小切手上の行為が前項の規定に依り有効ならざる場合と雖モ後の行為を為したる地の属する国の法に依れば適式なるときは後の行為は前の行為が不適式なることに因り其の効力を妨げられることなし(原文は、妨ゲラルルコトナシ)
第七十八条 第3項
日本人が外国に於て為したる小切手上の行為は其の行為が日本法に規定する方式に適合する限り他の日本人に対し其の効力を有す。