海外企業に製品を販売する時に、L/C(信用状)決済を利用することで代金回収リスクを減らせます。しかし、抑えておくべきポイントを忘れていると後から取引先とトラブルになり、最悪は代金回収ができなくなります。これから輸出取引を始める企業様へ、L/Cの説明と注意ポイントを纏めました。ビジネスの参考になれば幸いです。

 

目次

1.L/C(信用状)って何?
2.L/Cを使うメリットとは?
3.L/C取引で売り手(輸出者)には、手数料はかかるか?
4.L/C取引で必ず確認すべき14項目とは?
5.買い手(輸入者)が開設したL/Cに問題があった場合の対処法

 

1.L/C(信用状)って何?

見ず知らずの外国企業と取引する時に、L/Cを使う場合があります。L/Cの正式名称は、Letter of Creditで、簡単に言うと銀行の支払い確約書のことです。日本では、エルシーまたは信用状と呼びます。
L/Cは、買い手(輸入者)の銀行が発行します。L/Cの記載方法には国際ルールがあり、国際商業会議所(ICC)によって制定されたUCP( The Uniform Customs and Practice for Documentary Credits)と呼ばれる信用状統一規則を使います。UCPは、時代に合わせて内容を変更しており、現在は、2007年に改訂されたUCP600が一般的に用いられます。

UCP600の日本語訳は、国際商業会議所のホームページから申し込み可能です。

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2.L/Cを使うメリットとは?

L/C決済を使うと、売り手(輸出者)、買い手(輸入者)双方にとってリスクの少ない取引が可能になります。

国際貿易において、売り手(輸出者)が一番心配なのは、代金回収です。
契約代金を全額前払いしてくれるなら安心ですが、買い手(輸入者)の立場からすると前払いは、出来るだけ受けたくない条件です。

この問題を解決する方法として、L/C決済を使うやり方があります。
L/Cを使えば、売り手(輸出者)は、L/Cの記載記載通りに製品を出荷すれば、銀行から代金の支払いを受けれます。
一方、買い手(輸入者)も、L/Cの記載通りに製品が出荷されない限り、代金を支払う必要がありません。

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3.L/C取引で売り手(輸出者)には、手数料はかかるか?

L/C開設にあたっては、銀行に手数料を支払う必要があります。売り手(輸出者)、買い手(輸入者)のどちらが費用を負担するかについて、国際的な統一ルールはありませんが、通常は、買い手(輸入者)の属する国以外の場所で発生した銀行手数料(買取手数料やコンファーム手数料)は、すべて売り手(輸出者)の負担となります。

買取手数料とは、その名の通り、銀行にL/Cを買い取ってもらう時に買取銀行に支払う手数料のことです。
一方、コンファーム手数料は、L/Cの発行銀行が支払い不能に陥った場合でも、代金回収ができるように、別の銀行に支払い確約してもらう為の手数料です。

手数料の金額は、銀行によって異なるので、L/C取引をする場合は、契約を結ぶ前に自社が支払う手数料を把握しておく必要があります。

また、上記手数料以外に、注意が必要なのは、L/Cの条件変更費用(アメンド費用)です。
売り手(輸出者)と買い手(輸入者)のどちらが負担するかでトラブルになることがあります。
事前に、下記文言を記入したL/Cに開設してもらえば、より安心です。

Any banking charges incurred outside Beneficiary’s country shall be borne by Applicant.

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4.L/C取引で必ず確認すべき14項目とは?

L/C用語:
Applicant:買い手(輸入者)のこと、L/Cでは、申請者(Applicant)と呼びます。
Beneficiary:売り手(輸出者)のこと、L/Cでは、受益者(Beneficiary)と呼びます。
Issuing Bank (Opening Bank) : 輸入者がL/Cの開設を依頼した輸入地の銀行
Advising Bank:L/C通知銀行
Negotiation Bank:L/C買取銀行

⑴あなたの会社名のスペルや住所は間違ってませんか?

もし、あなたの会社が複数拠点を持っている場合、L/Cに記載の住所と、買取書類に記載の住所が異なると、不一致(Discrepancy/ディスクレ)となり、銀行は、L/Cの買取を拒否します。

⑵L/Cは取消不能(Irrevocable)と記載されていますか?

Irrevocable L/Cは、関係当事者(発行依頼人、発行銀行、受益者、確認銀行)の全員の同意がなければ、取消すことができない信用状のことです。
通常は、Irrevocable L/Cでの取引となります。
滅多にあることではありませんが、信用状に取消可能(Revocable)という記載があったら、発行依頼人から一方的にL/Cですので、すぐに修正を依頼しましょう。

補足:
信用状統一規則UCP600によると、Irrevocableの記載がないL/Cであっても、自動的に取消不能信用状とみなされます。

⑶L/Cを確認(Confirmation)してもらう必要がありますか?そうであれば、確認銀行は対応可能ですか?

L/C発行銀行の国際的な信用度が低い場合は、欧米や日本の一流銀行にL/Cの確認(Confirmation)を求めることで、L/C発行銀行の信用リスクを回避する方法があります。
確認を付加するか否かの決定権は、確認銀行にあり、拒否することも認められています。

⑷L/Cに記載されている通貨と金額は、契約書に記載された内容と一致してますか?

L/C買取銀行は、L/C記載内容のみで判断します。実際の契約金額がいくらであろうが、買取銀行は、L/Cに記載されている通貨と金額を超えての支払いには応じません。
また、”about” や “approximately” などの概数表現が金額(単価)や数量に用いられている場合は、自動的に記載された数字のプラスマイナス10%の範囲が容認される解釈になります。(信用状統一規則UCP600第30条a項)

⑸商品名は正しく記載されていますか?

L/Cの買取依頼にあたって、商品名の記載内容も重要です。インボイス上に記載された商品の記述は、L/C記載内容と完全に一致する必要があります。もし、L/Cにスペル間違いがある場合は、INVOICEなどその他輸出書類も間違ったスペルで記入するか、L/Cを修正(アメンド)する必要があります。

⑹信用状は一覧払いですか?もしユーザンス付き信用状ならあなたは承諾していますか?

L/Cには、一覧払い(at sight)とユーザンス付き払い(一定期間の支払い猶予)があります。なるべく売り手(輸出者)にとって有利な一覧払い(at sight)にしてもらいましょう。

⑺貿易規則(インコタームズ)は、販売契約と合致していますか?

貿易規則(インコタームズ)は、取引における売り手(輸出者)と買い手(輸入者)の運賃、保険の負担者と船積み方法、輸送責任の範囲を明確にする大切な取り決め事項です。船積み港、仕向け地の港は、契約書で合意した内容通りになっているか確認しましょう。

⑻保険の指示ははっきりと正しいのですか?

保険の提供は、買い手(輸入者)、売り手(輸出者)どちらが付保するのか契約で取り交わしたインコタームに基づいて確認しましょう。
もし、売り手(輸出者)が保険を付保する場合、必要とされる保険を自社で提供することができるかについても事前確認が必要です。

⑼出荷日を満たすことはできますか?
L/Cに記載された最終出荷日に間に合うように製品を用意できますか?
たとえ、最終出荷日が、運送業者の休日であったとしても、自動的に次の延慶日に出荷日は延長されません。必ずL/C記載の出荷日に間に合うよう準備が必要です。

⑽L/C有効期限は受け入れられますか?

L/C有効期限(Expiry Date)および買取書類(船積書類と為替手形)の銀行への掲示期限は、問題ありませんか?
※有効期限日が、銀行休業日の場合、次の営業日までに書類を提示すれば期限が延長されます。(信用状統一規則UCP600 29条)

⑾運送は、分納や積み替えが許されてますか?

製品を何回かに分けて出荷する可能性は、ありますか?もし、あるのであれば、分納(Partial Shipment)は、L/Cで認めらているか確認しましょう。また、船積港(輸出港)から荷卸港(輸入港)までは、同一船舶で運送されますか?もし、途中港で積み替えがある場合は、トランシップ(Transshipment)がL/Cで認められているか確認しましょう。

⑿有効期限は受け入れられますか?
有効期限(Expiry Date)および買取書類(船積書類と為替手形)の銀行への掲示期限は、問題ありませんか?尚、有効期限日が、銀行の休業日の場合、次の営業日までに書類を提示すれば期限が延長されます。※信用状統一規則UCP600 29条

⒀書類の要件は明確かつ理解可能ですか?
L/C上に記載の買取書類に、あなたが予想していなかった書類(検査証や証明書)を要求していませんか?また、書類用意にあたって追加費用は、発生しませんか?

⒁銀行手数料は、正しい当事者によって支払われていますか?
銀行手数料は、買い手(輸入者)と売り手(輸出者)のどちらが支払うか国際的に統一ルールはありません。初めてのお客とL/C決済で取引を行う場合、銀行手数料の支払いでトラブルになる場合があります。可能であれば、L/Cに銀行手数料は、どちらが負担するか明記してもらいましょう。

記入例
Any banking charges and amendment charges incurred outside Beneficiary’s country shall be borne by Applicant.

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5.買い手(輸入者)が開設したL/Cに問題があった場合の対処法

開設されたL/Cの記載内容に問題があった場合は、以下3つの対応方があります。

⑴アメンドメント(Amendment)

L/cを開設した買い手(輸入者)にL/Cの内容修正(アメンド)をしてもらう方法です。もっとも確実なやり方ですが、銀行へアメンド手数料を支払う必要があり、買い手(輸入者)と売り手(輸出者)どちらが負担するか取り決めておく必要があります。また、アメンド手続きには、時間がかかることも留意しておく必要があります。

⑵L/Gネゴ(エルジーネゴ)

L/Gとは、Letter of Guranteeのことです。売り手(輸出者)であるあなたが、保証書を付けて、ディスクレ(記載不備)のあるL/Cを買取銀行に買い取ってもらう方法です。売り手(輸出者)で対応ができるので、アメンドよりも素早い対応が可能です。ただし、もしL/C発行銀行が支払い不能になった場合、代金支払いの責任を負うことになります。ディスクレ内容が軽微な場合に使います。

⑶ケーブルネゴ

買取銀行経由で、発行銀行にディスクレがあるがL/C代金の支払いは可能か電信で確認することをいいます。発行銀行が問題ないと判断を下せば、買取銀行は、ディスクレL/Cを買い取ります。ディスクレ内容が重たく、L/Gネゴでは、リスクが高い場合に行います。

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