経済ニュースでよく出る日銀のインフレターゲットって何?

日本銀行が目標としていた2%の物価上昇率(インフレターゲット)は、達成が難しそうだとニュースになっております。金融関連の仕事をしている人であれば気になるところでしょうが、一般の人にはなかなか興味がわかないニュースかもしれません。しかし、海外と貿易している人は、為替レートの動きが企業の収益に直結するので、インフレ率や金利の動きから、為替レートを考えていく力が必要です。

インフレになるとどうなるの?

インフレになると物の価格が上がります。つまり、今日100円のボールペンが、1ヶ月後には120円、2ヶ月後には140円になっていくのです。例えば、あなたが毎月1本のボールペンを消費しているとします。使えるお金が500円あるとして、引き続き毎月1本ずつ購入しますか?おそらく今もっているお金を使って5ヶ月分(5本)のボールペンをまとめ買いするはずです。

では、反対にデフレになり物の価格が下がったらどうでしょうか?今100円のボールペンは、1ヶ月後に80円、2ヶ月後には60円になります。同じくお小遣いで500円もらえたとして、あなたは直ぐにボールペンを買いたいと思いますか?恐らく出来るだけ後で買いたいと思うはずです。よって、無駄な字を書かないようにし、毎月1本消費していたボールペンを2か月持たせる努力をするようになります。

急激なインフレは社会を混乱をさせますが、適度なインフレであれば、消費が増え、製品やサービスを提供している企業はたくさん売れて儲かります。そして、儲かった企業は利益を従業員や株主に還元し、再び消費が増えるという好循環が生まれます。また、お金を貯め込んでいた人も、早く物を購入する方が得だと考え、家や車など高価な製品を積極的に買うようになります。

インフレ率が変わる事による海外貿易への影響について

貿易の仕事をしているとインフレ率よりも気になるのが為替レートです。もし、1ドル=100円であれば、アメリカで10本ボールペンを売って10ドルを手に入れると、銀行で円に換金すれば1000円もらえます。(※手数料は省略します)しかし、1ドル=80円(つまり円高ドル安)になったら、せっかくアメリカで10本売って10ドル稼いでも、銀行で換金したら800円にしかなりません。為替レートの変動は、海外ビジネスにおいて収益に直結するのでとても重要なのです。

では、インフレ率が変動したら為替レートにどう影響がでるのでしょうか?この時使える考え方として、購買力平価説(PPP:Purchasing Power Parity)という理論があります。この理論には、絶対的購買力平価説と相対的購買力平価説の2つがあるのですが、後者の相対的購買力平価説の理論において為替レートは2国間のインフレ率(物価上昇率)の比で決定されると考えます。

相対的購買力平価説の考え方について

今、為替レートが1ドル=100円であるとします。米国は経済政策によって物価上昇率が年3%になりました。しかし、日本は思うようにいかず物価上昇率は年0%のままだとします。この場合、為替レートはどう動くでしょうか?

計算式では、以下の通りになります。

新為替レート= 旧為替レート × {(100+日本の物価上昇率)÷(100+アメリカの物価上昇率)}

と言っても、今少しピンと来ないと方もいると思うので、文章で考え方を説明します。

今、米国でボールペンが1本1ドルで売られていたとします。為替レートが1ドル=100円ということですので、日本では、同じボールペンは、同じ時に1本100円の値段が付いているはずです。
では、1年後に価格はどうなるでしょうか?米国で売られていたボールペンは物価上昇率分だけ値上がりし1本1.03ドルになります。しかし、日本のボールペンは物価上昇が無いので1年後も同じ1本100円のままです。

相対的購買力平価説では、自由な市場経済において同一の市場の同一時点における同一の商品は同一の価格であるがと考えます。これを一物一価の法則といいます。つまり、この理論によると1年後に米国で売られているボールペン1.03ドルと日本で売られている100円のボールペンの価値は等しくなる必要があります。

商品の価値を等しくする為には、貨幣の価値すなわち為替レートが変わる必要があります。
これを式で表すと、1.03ドル × 為替レート(X)=100円になります。

あとは計算すれば良いだけで、為替レート(X)=100(円)÷1.03(ドル)=約97.1 になり、ボールペンの価値を同じにする為替レートは、1ドル=約97.1円という事が分かります。

今時点の為替レートが1ドル=100円ですから、相対的購買力平価の理論で考えると、これから1ドル=97.1円、つまり円高ドル安に向かうと考えられるわけです。

勿論、実際の為替レートは、こんなに単純に決まる物ではありませんが、物価上昇率が為替レートに与える影響について自分の頭で考えれるようになることは非常に有意義な事だと思います。

以上